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「マンションの損害保険」について

更新時期を控えたマンション理事会より「マンション共用部分に関する損害保険ついて」の相談がありました。今回は、その保険更新におけるチェックポイントについて記載いたします。

マンションで火災、爆発等の事故が発生した場合、他の専有部分や共用部分にまで及び、被害額が多額になるケースが想定されます。そうした事故が発生した場合に損害保険が付保されていないと、復旧費用の調達、負担が障害となって復旧工事の着手の合意形成に支障を来たすことになります。

また、マンションでは共用部分や共用設備・施設等の不備・欠陥等が原因で、居住者や外来者に損害を与えたり、さらには、居住者の日常生活の不注意から水濡れを起こし、階下に損害を与えたり等、さまざまな事故発生の恐れがあります。万一、事故が発生しても、復旧費の調達に困ることのないよう、安定した管理体制を確立し、マンションの財産価値の長期安定と、居住者間の良好な共同生活環境を維持して行くためには、「損害保険を活用」 していくことが不可欠です。

【1】基礎用語

1.保険の目的・・・・何に保険をつけるかの対象とするもの

建物、設備、什器備品、家財、etc

2.保険金額 ・・・・保険の契約金額のこと

マンション建物に1億円の火災保険をつける

3.保険価格・・・・保険事故が生じることで、被保険者が損害を被る恐れのある最高評価額

4.保険料 ・・・・掛け金のこと

5.料率  ・・・・保険金額×料率=保険料

6.保険金 ・・・・事故で保険適用となり受け取れる金額

7.免責額 ・・・・事故の際事故の認定額から差し引かれる金額

8.フランチャイズ・・・一定の金額までは支払いがされない保険条件

(一定額を超えた事故は、その金額を含めて支払い対象となります)

【2】マンション管理組合向け保険として代表的なもの

1.火災保険

共用部分のみを対象にした基本的な補償。一般的には、火災・落雷・破裂・爆発・風災、ひょう災・水濡れ、物体の落下・飛来・衝突、その他破損汚損の事故による損害臨時費用、残存物取り片付け費用・水濡れ調査費用などの費用保険及び水害危険補償、設備損害補償特約も付帯できます。火災保険は地震を原因とする損害は、対象外です。

2.個人賠償責任保険

居住者個人が法律的な賠償責任を負った時の保険で、火災保険の特約として契約できます。マンションの専有部分の配管からの階下への水濡れ、ベランダから植木鉢を落下させて怪我をさせた等、日常生活に起因する偶発的な事故に備えて、区分所有者や賃借人を賠償事故から守るための保険です。

・マンション専有部分で洗濯機ホースがはずれ水漏れした場合の上下階における漏水事故によるトラブルを避けるため、マンション総合保険の特約として管理組合が一括して付帯することができます。

3.施設管理者賠償責任保険

管理組合が法律的な賠償責任を負った時の保険で、火災保険の特約として契約できます。

・マンションの外壁の一部が落下して通行人にケガをさせた場合や共用部分の配水管から漏水し、階下の専有部分の部屋の家具、衣類等を汚した場合等、マンションの共用部分(マンション敷地内の建物・設備・施設)の欠陥や管理の不備が原因で、他人(第三者、居住者)に怪我をさせた場合や財物を損壊させたことで管理組合が法律上の賠償責任を負い、請求された場合に保険金が支払われます。

4.地震保険

地震、噴火、津波等によって住む家を無くした人のための保険で、一般的な火災保険のように損害のあった箇所の修復費用を担保するものではありません。地震保険では、地震、噴火、またはこれらによる津波を原因とした火災・損壊・埋没・流失による損害が補償されます。地震による火災や倒壊の場合、火災保険だけでは補償されず又、単独では加入できませんので、火災保険とのセットで加入します。

地震保険は火災保険とセットで、30%から50%の保険金額の範囲で加入することになります 。 実際の損害額をもとに支払うのではなく、損害の状況(程度)によって4つに分類 [全損、大半損、小半損、一部損] して支払われます

・地震災害から住宅の復興を目的に制定されたため、住宅しか掛けられません。

・火災保険と一緒に契約し、地震保険単独では加入できません。

・地震保険金額は火災保険金額の半分までしか設定できません。

・地震保険料の割引制度は4種類あります。(重複適用はされず、いずれか1つのみ選択します)

*耐震等級割引 *免震建築物割引 *建築年割引 *耐震診断割引

・損害の基準は全損、大半損、小半損、一部損の4種類です。

・損害認定は主要構造部の損傷度合いで決まります。

・主要構造部に被害を受けた時が対象のため、小損害、給排水管だけの損害は対象外となります。

・地震による火災被害は火災保険では対象外であるため、地震保険でカバーすることとなります。

【3】新型火災保険管理組合プランについて

管理組合が加入する「新型火災保険」は、ほぼオールリスクの補償が可能です。そのオールリスクの補償の一部を脱着して従来の「火災保険」よりも安い保険料でより拡大した補償が得られるようになっています。管理組合プランは共用動産も補償の対象になる保険が多いです。近年、多くの損害保険会社から、各社独自の保険新商品が発売され、管理組合で付保する損害保険契約の選択肢は増えていますが、管理組合にとってよりメリットの大きい内容の保険(保険会社)を選ぶことが必要です。

安心できる適正な内容を適正な保険料でカバーするためには、各社の提案内容を専門家に相談しながら比較検討の上、決定することが重要です。

【4】保険契約プラン検討のチェックポイント

  • 建物の評価と保険金額の設定(マンションでは再調達価格ベースで組み立てます)

前述の基礎用語の通り、保険金額とは保険を「いくらつけるの?」の「いくら」にあたる金額のことです。

マンション管理組合の場合は、マンション共用部分だけに火災保険をかけるため、建物全体のうち共用部分の保険金額を決めることになり、次の4つの要素より共用部分の保険金額を算定します。

保険金額=建築費㎡単価(注1)×延床面積(建物全体の)×共用部分の割合 (注2)×付保割合(注3)

  • 床面積あたりの㎡単価が、適正に設定されているかを保険会社資料より検証をします。

*まず、建物全体金額を算出します。建物全体金額=共用部分評価額÷共用部分の割合(一般的には60%)

*算出した建物全体金額より㎡単価を計算して検証します。 ㎡単価=建物全体金額÷延床面積

(注2) 建物全体(共用部分+専有部分)の中で 「共用部分の割合」は、保険会社によって多少の違いがありますが、50%〜70%の間で設定します。ただし、マンションの規模、構造、立地(環境)でも変わってきます。床面積比では無く、建物の建築費の割合で決めます。(60%が一般的)

(注3) 「付保割合」は、保険料の軽減のために一般的には、再調達価額の30%〜60%程度で設定します。「付保割合」を 設定した場合は、分損の時に損害額が掛けた金額に応じて減額される「比例てん補」とならないように、実損係数を掛けて付保割合までの実損を受け取れるようにしています ( これを「実損てん補方式」といいます)付保割合を低くして保険金額を下げれば保険料が下がりますが、下記の「付保割合別の軽減率」の通り、 保険料は割高になります(付保割合分ほどには保険料が軽減されませんが、管理費削減策の1つとして各マンションの状況に応じて最適な付保割合を検討することが重要です。)

付保割合別の軽減率

付保割合  実損係数   合計    軽減率
30%  1.78  0.534 46.6%
40%  1.48  0.592 40.8%
50%  1.26  0.630 37.0%
60%  1.11  0.666 33.4%

2.専有部分・共用部分の範囲区分と上塗り基準

マンション標準管理規約では共用部分の範囲は、「上塗り基準」となっています。つまり、専有部分と共用部分の境目を、壁、天井、床などの(上塗り部分を含めた) 部屋の内側とするものです。 保険金額を決める場合には対象物件が、「上塗り基準」かどうかを確認する必要があります。

3.保険対象範囲の確認

契約者名義(管理組合理事長名義か)、建物契約には、基礎、地下室、門、塀、垣および物置、車庫その他の付属建物を保険の対象にするかどうか並びにマンション敷地内にある棟以外の共用施設・設備が含まれているかも確認(明記)することが大切です。

4.保障内容は、必要なものが契約に入っているか確認します。

(例えば、水濡れ原因調査費用、施設賠償、個人賠償特約等)

5.逆に不要な特約が付いていないか確認します。

(例えば、高台のマンションに水災特約がついていたりしていないか確認が必要です)

但し、水災保障は、地下でも「人が入れるスペース」は地盤面とみなされ、水害で地盤面から45cm以上の浸水となった場合、被った損害は水災で補償されるので地下駐車場等の設備がある場合は、検討に値します。但し保険料は、高額であるため各マンションの立地や構造を充分検討した上での判断が求められます。

6.1社だけでなく、各社を比較検討し、見積り内容の比較一覧表の作成が望まれます。

各社によりサービスに特徴があり、また、エレベーター台数など共用施設、設備が同じ条件で見積りされているかを一覧にして確認することが必要です。

7.各社の割引制度を必ず確認します。

マンションの構造、耐震等級、築年数、契約年数等により、割引制度を持つ保険会社があり、交渉、確認が必要です。(例えば、不担保特約、耐震等級、新築物件、長期契約等)。又、マンション管理士による現地での目視や書類チェック・ヒアリング等を通した管理診断を受けた後、給排水管等のメンテナンス状況に応じて保険料が割引される制度を持つ保険会社の提案等も比較検討が望まれます。逆に、高経年マンションの保険加入を拒否する各社の動向がありますので確認が必要です。

8.各社の免責条件の違いを確認し、各マンションの実状より有利な条件を検討します。

各社で免責条件の違いがあるので、注意。特に破損、汚損は保険請求の内、70%を占めると言われており、免責条件の確認は、重要です。

9. 水濡れ原因調査費用は、各社で違いがあり、確認し実状にあった有利な内容を選択します。

例えば年間1000千円の補償の場合と1件1000千円の補償の場合があり、水漏れ事故が多いマンションでは、大きな差となって現れます。

10.保証期間の検討は、各マンションの資金計画を確認し選択します。

保険期間は、長期の5年一括払い契約プランが資金面に問題なければ、1年払いの4.3倍程度になり有利です。中途解約をしても月割り計算で返金されるので実損は発生しません。保険会社が破産の場合も1ヶ月以内90%、以降80% 保障があります。積立方式もありますが、低金利の為運用としてのメリットが少なくなっていますが、ペイオフ対策の意味で、採用される場合があります。

11.専有部分と共用部分の範囲区分の確認

専有部分と共用部分の範囲区分は“管理規約”でそれぞれ具体的に明記することになっていますのでこれも確認が必要です。特に、給排水管の範囲区分は、漏水事故での責任範囲、負担者にも影響します。

12. 保険金の請求のポイント

万一、事故が発生してしまったら、ただちに事故発生日時・場所・原因・損害の程度。証券番号などを確認して、保険会社(代理店)に連絡します。また、事故の状況を記録として残すため現場の写真撮影をしておくと保険金の請求の時に役立ちます。 なお、保険請求権の消滅時効期間は3年となっています。

【5】マンション保険とマンション法

1.保険付保と「区分所有法」、「標準管理規約」との関係

・区分所有法では

共用部分についての損害保険を締結することは、集会(総会)の普通決議で決める。ただし、管理規約で別段の定めも可能とされています。(区分所有法(18条4項))

・標準管理規約では

「区分所有者は、共用部分等に関し、管理組合が火災保険その他の損害保険の締結することを承認する」としています(標準管理規約24条)。

したがって、理事長(管理者)は、管理組合の代表者ないしは、全区分所有者の代理人の立場で、保険会社との間で、管理規約で定められた業務執行として損害保険を「管理組合の名」にて締結することができます。

2.保険金請求・受領の代理権限

「区分所有法(26条2項)」、「標準管理規約(24条2項)」では、損害保険契約から生ずる保険金請求や受領について、理事長の代理権を認めています。(専有部分は、保険付保も保険金受領の権限もありません)

3.保険内容、保険会社の選定権限

マンションの損害保険を付保するかについては、集会(総会)決議が必要になりますが、どの保険会社とどのような内容の損害保険を締結するかについては、総会で決まった予算内であれば特段の総会の決議がなければ、管理者(理事長)が決めることが出来ます。ただし、積立型の損害保険は、修繕積立金の運用という一面を持つことから、あらためて総会の決議が必要になります。

【6】マンション保険付保の実態

1.保険付保と管理会社

管理会社の多くは、損保会社の代理店を兼業しています。また、マンションの損害保険は竣工引渡し後すぐに付保する必要になりますがこの時点ではまだ管理組合組織が機能していませんので、分譲会社系列の管理会社が全て手配しています。

そして、どの保険会社、どのような保険内容かは管理会社が決めて管理組合に代わって保険契約締結しているのが実態です。

また、保険の契約は毎年更新されますが、この時も管理組合は管理会社任せであることが多く、保険の見直し(他の保険会社に相見積もり)を何年もしていないケースがあります。5年長期一括、10年長期一括契約の場合には5年間、10年間は見直されなくなることから契約時には他社からも見積を取り付けて比較検討しないと、結果的に管理組合にとっては他に比べて不利な内容で割高な保険に加入している可能性があります。

マンション保険は管理費から支払われますので管理費の適正な費消、削減のためには、「マンション保険の見直し」を実施することは管理組合(理事会)の重要な業務(仕事)です。

2.保険の見直しには

マンション管理組合向けの損害保険に関して、近年、多くの損害保険会社から、各社独自の保険新商品が発売され、管理組合で付保する選択肢は各段に増えて来ていますので、管理組合にとってよりメリットの大きい保険会社の保険を選ぶことが大切です。

又、よい保険会社を選ぶのは当然のこととして、損害保険は基本的に代理店制度をとっていますので、良い損保代理店を選ぶことは、管理組合に適した保険の加入及び事故後の適切なフォロ-のため極めて重要です。地元で評判の良いプロ(保険専業)の代理店と契約することが望まれます。

損害保険は専門的知識も必要になることから、マンション管理士等にアドバイスを求めることは良い保険会社(代理店)に加入する近道と言えます。

以  上